建築家 仰木魯堂の設計による別邸
工学者であり実業家、のちに男爵を授けられる團琢磨氏(1858〜1932)が箱根・仙石原に別邸を建築したのは1925年(大正14年)のことでした。
別邸を新築するにあたり琢磨氏が設計を依頼したのが、同じ福岡県出身の建築家・仰木魯堂(おうぎろどう)。團家に出入りしていた魯堂は茶道にも精通する粋人で、琢磨氏とは互いに厳しい審美眼、美意識に一目をおく関係でした。
そんな魯堂が目にした琢磨氏所有の土地は、雑木林の中に渓流が流れ地形の起伏が豊かで、「山中の自然を楽しむ別邸」建設に絶好の地。熊笹や竹を刈り、老樹を残し、その中にスケールの大きな木造西洋館を建てました。
自然の中で映える白い塗り壁と木の軸組の外観は、和のテイストもあり、またスイス・アルプス地方の家を思い描かせる個性的なものでした。
團琢磨氏別邸の庭園
内部の設いは西洋風で、1階には暖炉のあるリビングルーム、2階にはベッドを置いた4つのプライベートルームがありました。和洋の調和の美しさには、14歳から7年間アメリカに留学し、またビジネスでイギリスを訪れていた琢磨氏ならではの感性が反映されていたのでしょう。
民間外交家としても有名だった琢磨氏は、この別邸に政財界で活躍する多くの外国人客も招いています。
自然の中でリラックスして交流できるサロンでもあったのです。
ゲストの憩いの場所だったロビー
クラシックな趣のホテルフロント
團琢磨氏が建てた別邸の良さをそのまま活かして、息子の伊能氏がホテルとして開業したのは1957年(昭和32年)5月25日。新緑が美しい季節のことでした。
伊能氏は、三井グループの支援を受けて、大正14年に建てた別邸を改築。
ホテルの本館をスイス風に“シャレー”と呼び、隣接して別棟に食堂と和室を作り、庭には7棟の“カテージ”を新築。全18室のホテルとしてスタートしました。
『箱根ハイランドホテル』の名前は、伊能氏が好きだったイギリス北部の“ハイランド地方”からとったものです。別邸には琢磨氏がしとめた鹿の剥製があったことから、鹿がホテルのシンボルマークになりました。
海外経験も豊富な伊能氏がめざしたのは、「品格のあるホテルに」ということでした。
当初の宿泊客は、三井系列会社などの團家と交流のある方たちが多く、とくに夏は避暑に訪れる人で連日満室。しかも数週間やひと月単位で長期滞在する方がほとんどで、帰るときに翌年の予約を入れていくといった具合でした。
團家ゆかりのゲストから始まったホテルの評判は、政財界で活躍する人たちをはじめ、俳優、スポーツ選手などに広まり、元外務大臣の藤山愛一郎氏など、多くの著名人もプライベートで訪れるようになりました。
上質で温かなおもてなしの心はそのままに──
開業当初からの團家のこだわりは、このあとも大切に受け継がれていきました。
本格的フランス料理の「グリル・オールドワイン」
團琢磨氏別邸の木造西洋館をいかして開業したホテルが、現在の建物に改築したのは、1977年(昭和52年)のことです。完成した建物は、モダンでありながら自然との一体感が心地よい気品のある本格的リゾートホテルでした。
新しくなった建物の数ヵ所には別邸時代を彷彿させるステンドグラスなどが残り、開業以来培われてきたホテルのホスピタリティマインドも、もちろんそのまま守り続けられました。
また、食へのこだわりは『箱根ハイランドホテル』の伝統です。
ホテルの建て替えでレストランは、本格的なフランス料理が堪能できる「オールドワイン」と、和食と洋食を同じテーブルで楽しめる「ラ・フォーレ」との二つになりました。
そして、ホテル再スタートの年にフランスから招聘されたのが、フランス料理の国家資格“シェフ・ドゥ・ランク”をもつ高橋孝幸です。
フランスで7年間13軒のレストランで修業を積んできた彼は、「水がおいしいところ、空気が澄んでいるところで料理を作りたい」と思い、箱根はその理想にかなう土地でもあったのです。
レストランはたちまち評判を呼び、週末には2時間以上のウエイティングが出たほどでした。
当時のホテル エントランス
庭園に面した、
マントルピースのあったラウンジ
1980年代に入ると、ホテル自慢の旬の料理が楽しめる、1泊夕・朝食付きの宿泊プラン「ディナーパック」が発売されました。
フランス料理コースと日本料理コースで、季節ごとに献立を変えて、食事の内容がすべてわかる写真付きのパンフレットを用意。
前もって料理の献立を知らされることはなかった当時としては、お目当ての料理が堪能できるこのプランは、食通のお客様に歓迎されました。
季節の料理を中心にした旅の提案は、形を変えて現在も引き継がれています。
1989年に復活した温泉浴場
1977年(昭和52年)のホテル建て替え時、各客室にバスルームのあるホテル形式を採用したため、温泉浴場はなくなっていました。
ところが、1980年代後半から温泉ブームが到来。1989年(平成元年)、一面ガラス張りの温泉浴場が新設されました。
また、1994年(平成6年)には庭園内に2人用と4人用のコテージが10棟完成しました。
間取りも昔と同じように、ベッドルームとリビングルームが独立した造りになっていて、もちろんバス・トイレ付き。「別荘気分で優雅に楽しめる空間を」という開業当時の発想が、時を隔てて復活したのです。
2004年(平成16年)には、時代のニーズをいち早く取り入れ、「ワンちゃんと泊まれるコテージ」もオープンしました。
「フレンチジャポネ」を楽しむレストラン「ラ・フォーレ」
洗練されたデザインを採用したスタンダードツイン
2001年にリニューアルされたラウンジ
そして、『箱根ハイランドホテル』が50周年を迎える2007年(平成19年)を目標に、ホテルでは2001年から大改修をスタートしました。
最初に、ラウンジとロビーを、翌年にはエントランス、レストラン「ラ・フォーレ」、客室を改修。
連綿と引き継がれてきた伝統と格式に、新しくアーティスティックなセンスが吹き込まれ、ホテルはより洗練度を高めました。
レストランの中庭には、薪火のかまど“ガーデンブロッシュ”を設置。
そして、この2002年(平成14年)のレストランのリニューアルで誕生したのが「フレンチジャポネ」。
フランス料理の伝統的技法をベースに、和の食材や調理法を取り入れたオリジナル料理です。
心地よさを追求したアクアラウンジ
自然の中でバスタイムをゆったりとお過ごしいただけます
2007年、温泉浴場とSPA、アクアラウンジのある温泉棟も新設され、50周年に向けた改修が完成しました。
ラ・フォーレ Hanare
コンフォートツイン
2014年3月16日、より一層ご満足いただくために本館の一部リニューアルと新館「森のレジデンス」が誕生しました。
本館客室は、「コンフォートルーム」が新たに2室、ワンランク上の機能的な客室が加わりました。
かつてのメインダイニングである「オールドワイン」は全面改装し、「ラ・フォーレ Hanare」として、新しく生まれ変わりました。
全15室で構成された新館「森のレジデンス」は、温泉露天風呂付きのお部屋と、愛犬とご一緒に箱根リゾートを満喫していただけるドッグフレンドリールームの2種類をご用意しております。
50m²を越える広さで、高い天井もあいまって開放的なゆとりのある空間を味わっていただけます。
設計は、小田急ロマンスカーVSEやMSE、関西国際空港旅客ターミナルビルなどを手掛けた岡部憲明アーキテクチャーネットワークが担当し、自然の風を室内に取り入れやすくするなど、箱根の自然を満喫することができます。
時とともにホテルは姿を変えてきましたが、團伊能氏が開業したときの「上質で温かなおもてなし」の精神はずっと変わらないまま。
『箱根ハイランドホテル』では、これから先も同じ思いでお客様をお迎えしたいと考えています。